大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2484号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人関昇、矢島幸次郎の弁護人海野普吉、位田亮次の上告趣意について。

所論は原判決は判示軍鷄賭博において賭場開張者が判示傷代及び蓆代等の名義を以って金銭を徴收したこと自体で直ちに図利の事実を認めているが、傷代蓆代等が賭場開張者の利に帰するという証拠もなく、其の他賭場開張者が金銭的利益を得たという証拠もない。もともと傷代蓆代等はいわゆる寺銭、手数料名義の金銭とは異り通常軍鷄等の所有者に帰すると考えられるのであるから、特段の判示なくしては賭場開張者の利に帰するとはいわれないものであるのに原審が傷代、蓆代等の名義で金銭を徴收したこと自体でたやすく図利の事実を認めたことは審理不盡、理由不備の違法があると主張する。

なるほど、軍鷄の傷代、蓆代の字句に捉われて個々に考えるときはこれらの費用は軍鷄なり蓆なりの所有者に支拂われるべきもので、特別に判示しない限り、寺銭手数料等とは異って徴收者の利に帰するものとはいえないもののようであるが、一体、軍鷄賭博で賭場開張者が傷代、蓆代等の名義で賭博の勝者から一定率の金銭を徴收した場合には、むしろかえって、特段の事情がない限りその徴收金は一應賭場開張者の利に帰するものであるとみるのが社会通念であって、特別の判示を要しないこと一般の賭博における寺銭等と異らない。そして又その金銭が夫々軍鷄所有者、蓆所有者等に軍鷄の傷代なり蓆の損料なりとして支拂われるとしても、金額は勝負の都度勝利者の取得する金銭から一定歩合で取立てられるのであるから、その時の賭金の多寡により必ずしも一定せず、場合によっては全額支出し現実の利益がないこともあろうが、それを以って賭場開張者に当初から図利の意思がなかったものということはできない。

原審が判決挙示の証拠によって判示事実を認定した趣旨も上叙の意に外ならないのであって、原審判決の判示事実はその掲げる証拠により推認し得るところであり、所論原審が採用しないとみられる供述趣旨をもってする主張は必ずしも当らない。それ故、原審認定は正当であって所論のような違法はない。

よって刑訴施行法第二條、旧刑訴法第四四六條に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 小谷勝重)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例